ベトナム人の優秀さが日本人社員に広がる成果を得て中小企業の採用支援も トクシンテクノは香川県で鉄製階段の設計・製造を中心とした事業を行っている。2012年から外国人技能実習生の受け入れを始め、グループ会社全体で25人ベトナム人実習生が工場で技能実習を受けている。その経験を生かし、15年からはベトナム人大卒者の正規雇用を始め、現在は日本の中小企業向けに優秀なベトナム人大卒者を採用できる面接会のプロジェクトも進めている。 将来の海外展開を見据え外国人実習生を受け入れ トクシンテクノの創業は2009年、社長の小林有二さんが父親の鉄工所から独立して配管や鉄製タンクの製造工場をM&Aしたことが始まりだ。そして現在は、鉄製階段や手すりの設計・製造を行っている。 同社が外国人技能実習制度を利用して工場に外国人の受け入れを始めたのは、12年のことだった。 「製造業は人手が足りず、日本人従業員が入ってくれれば一番いいのですが、なかなか集まらない状況でした。また、近隣の国に設計会社を設立し、その後は工場も進出させることを考えていたので、まずは進出する国から技能実習生を受け入れようと考えました」と小林さんは言う。 小林さんが最初に選んだのは中国だった。「まず3人の中国人技能実習生を受け入れてみたのですが、仕事に対する考え方が当社の社風とは会いませんでした。また、中国現地での法人設立も手続きの面で難しく、中国への進出は断念せざるを得ませんでした」 次にフィリピンをと考えて現地を視察したが、さまざまな面で進出は難しいと感じた。その次に小林さんが考えたのがベトナムだった。現地の治安の良さ、人材を送り出す側の態勢が整っていたことなどが理由だった。まずは地元の事業協同組合を通して外国人技能実習生の受け入れを申請し、ベトナム側の送り出し機関に人材候補を紹介してもらった。そして小林さんが首都ハノイに飛んで面接を行った。「9人紹介された中から3人を選んで日本に来てもらいました。面接ではどの人も同じような答え方をするので、選んだ基準は第一印象ですね」 1年目は3人だけだったが、翌年からはグループ会社も含めた3社で9人のベトナム人技能実習生を毎年受け入れていった。 作業手順を絵にすることで説明がスムーズに 社内にベトナム語を話せる人はおらず、ベトナム人技能実習生たちも日本語は話せない。そこで同社では、指示の伝達コミュニケーションに工夫を凝らしてきたと小林さんは言う。「技能実習生受け入れの経験は、私が父の会社で働いていたころから数えて約20年になります。その経験から言葉で作業を教えるのが無理なのは分かっていました。ジェスチャーが主ですが、作業の説明書をつくり変え、絵を見たら分かるようにしました。作業自体はそれほど複雑なものではないので、これなら説明が少なくて済みます」 また技能実習生たちの住まいも、最初はアパートを借りていたが、人数が増えたため、現在では技能実習生用の寮を所有しているという。 「技能実習生の中には休みの日に商工会議所が開催している無料の日本語教室に通っている子もいます。日本語の覚えが早い子は仕事の覚えも早いですね。彼らを受け入れて良かったです」 ベトナム人技能実習生の受け入れを始めて、感心したのはその真面目さだという。「日本人の社員たちも、最初は外国人と仕事をすることに不安を感じていたと思います。でも現場で共にすると、それまで日本人が2人でやっていた仕事を1人でこなすほど、技能習得が確実で早い。日本人が彼らの姿勢に感化され、仕事に真面目に取り組むようになったほどです」 自社の経験を地域に生かしベトナム人大卒者雇用を推進 トクシングループ3社では、これまでに30人以上技能実習生を受け入れてきた。そして3年前からは、ベトナム人エンジニアを正社員として採用することも始めている。 「ベトナム人技能実習生を受け入れてきたこれまでの経験を生かし、技能レベルの高い人材を長期雇用していくことにしました。日本人社員と同じように設計や管理業務ができる人材です。これは技能実習制度では無理なので、優秀な人材をベトナムから直接雇用することにしたのです」 最初は現地の知り合いに紹介された25歳の大卒者を雇用して日本で教育していった。残念ながらこの人は日本になじめずに帰国してしまった。2年目は一気に4人採用し、そのうちの2人が残った。それと同時にハノイで会社設立の準備を始め、現在はトクシンベトナムとして、現地スタッフが施工図作製業務を行っている。そこで社長と部長を務めているのが、2年目に採用した2人のベトナム人社員だという。 「やはり直接契約して雇用する、社員として働くということで、お互いに帰属意識や責任感などの面で、滞在期間が決まっている技能実習生とは違います。今はこちらに3人のベトナム人エンジニアがいて、そのうちの2人は近いうちにトクシンベトナムに入ります。日本で研修して現地の仕事を任せるという、この形はこれからも続いていきます」 トクシングループでは、これまでの経験を生かし、人手不足に悩む中小企業を支援するためにベトナム人大卒者の面接代行・採用支援を行うトクシントラストを立ち上げた。同社は[外国人採用成功事例セミナー」を四国や大阪で開くとともに、ベトナムの国立大学の協力を得て、優秀な学生を選考する「トクシン+Japam50合同面接会」をハノイで開催した。5月の面接会では日本企業13社の参加に対して1000人以上の学生から応募があり、一次選考を経て本面接者196人を選定。本サービスは1社あたり最低10人の面接者を保証しているが、成績優秀な学生や日本語能力が高い学生が予想以上に多く集まったことから、最終的に1社あたり平均15人の学生が本面接を受け、31人が内定に至った。こうした人気ぶりから、10月末の面接会には20社の参加枠に対し、すでに5社の参加が決定した。 「ハノイにはいい大学が多く、いい人材が集まりやすい。技能実習生を受け入れている企業はありますが、大卒者採用についての経験がない企業が多い。その差を知ってもらい、戦力となる人材確保のお手伝いをしたいと思っています」 人手不足は待っているだけでは解消しない。積極的に外に出ることで道は開かれる。