人手不足解消へ ベトナムと日本の懸け橋に 雇用支援の新ビジネス 「ベトナムの若い力が我が社を助けてくれた。この経験と培ったノウハウを生かして、日本の中小企業の経営者を支えたいと思ったんです」 深刻な人手不足が経営者を悩ませている。多度津町のトクシングループを率いる小林有二さん(49)もまた、かつて同じ悩みを抱えていた。救いを求めたのがベトナムだった。 鉄製の階段を専門に作る鉄工所「トクシンテクノ」。2013年からベトナムの大卒生を技能実習生として受け入れている。一昨年には鉄製建物の設計図をつくる「トクシンベトナム」を現地に設立。現在、多度津町のグループ4社を含め、総勢50人程のベトナム人を雇用している。「彼らは真面目で仕事を覚えるのも早く、何よりハングリーです。英語や中国語を話せる人材もいて、日本人スタッフにも良い刺激になっています」 人手不足を克服した小林さんは、ある時思った。「うちが困っているんだから、よそも困っているんじゃないだろうか」 鉄製品とは全く違う新たなビジネスのイメージが膨らんだ。ベトナムと日本の中小企業を橋渡しする雇用支援サービスだ。ベトナム人大卒生の面接などを行う会社「トクシントラスト」を立ち上げ、自社の実習生の働き具合や成果を紹介するセミナーを高松や大阪で開催。今年5月に企業の人事担当者をベトナムに案内するツアーを企画すると、造船会社や鉄工所など全国から13社が集まった。「このツアーで31人の内定が決まりました。面接に応募してきたベトナム人大卒生は1000人以上。日本で働きたい若者はたくさんいます」 小林さんの強みは、自社の人材受け入れで築いてきた、ベトナムトップクラスの有名大学との協力関係だ。「日本企業に紹介するのは、東大や京大の学生にも引けを取らない、いわゆるエリート。単なる従業員ではなく、将来は会社の幹部にもなれる人材です。彼らもやりがいのある仕事を求めて海を渡ってくるんです」 現地に日本語学校もつっくった。今年11月に開校予定で、すでに100人程の入学が決まっている。「一番の課題はコミュニケーション。いくら優秀でもコミュニケーションが取れないと、能力が企業側に伝わらない。日本語だけでなく、ビジネスマナーなども教える予定です。」 外国人労働者の就労を巡っては、日本人雇用を守るなどの理由で「単純労働者は受け入れない」「大学教授や医師などの専門家や、技能実習生に限る」など様々な制限が長く設けられてきた。だが、国内の労働人口が減少する中、今後は貴重な働き手になると見られている。「来年春には制度が大幅に緩和される見通しです。そうなれば外国人受け入れの気運が一気に高まるのでは」と小林さんは先を見据える。 生きた証を残したい 高校卒業後、実家の小さな鉄工所を手伝っていたが、「家業は兄が継ぐことになっていたので、いつか独立するつもりでした」 09年、40歳の時にチャンスが巡ってきた。あるプラント工業の経営者が「高齢で引退するので、設備や従業員ごと引き継いでほしい」と言ってきた。「ありがたい話だ」と飛びついたが、不運にも時はリーマン・ショック。徐々に仕事は減り、数か月後には運転資金も底をついた。事業の縮小、業種の転換などを図ったがうまくいかず、12人いた従業員は全員離れていった。「手元にはプレハブ小屋とボロボロのトラックが1台。どうしようかと途方に暮れました」 実家の鉄工所に戻ることは考えなかったのか。「それはなかった。振り出しに戻るだけなので。『自分の生きた証を残したい』。それだけを考えていました」 たった一人での再スタート。ペンキ塗りや溶接など小さな仕事をコツコツ続けた。すると、少しずつ仕事が増えていった。「あとから取引先に言われました。『暗い顔をして落ち込んでいたら、どうせ無理だろうと思って仕事を任せられなかった』と。明るく前向きにやっていれば何とかなるものです」 その後、鉄製の階段と手すり製造というニッチな分野に特化し、口コミで広がった取引先は120社。やがて中四国一のシェアを誇るまでに業績を伸ばした。「できないと思えばできないけれど、できると思えばできる。できると思えば、アンテナを張り、どう戦略立てていくかシュミレーションできる。大事なのは、実現したい未来をいかにイメージするかだと思う」。小林さんはこれまでの歩みを振り返りながら、熱い口調で語る。 社長5人で酒を飲みたい 最初の企業から10年足らずで、トクシンテクノ、トクシントラスト、トクシンベトナムなど5つの会社を立ち上げた。「銀行の担当者にもよく言われます。なぜそんなに次々と会社をつくるのかと」 将来、自分が育てた若き社長たちと酒を酌み交わすシーンを小林さんは想像する。「会社が一つならポジションは一つしかありませんから」。常務や専務といった幹部でも給料をもらう側で、社長とは違う。同じ立場じゃないと腹を割って話せない。 「どんな投資をし、どんな戦略でどんな事業を目指すのか。5人の社長でいつか経営論を戦わせたいですね』 http://www.bk-web.jp/2018/1001/person.php